〈STORY〉
平家が滅亡した「壇ノ浦の戦い」。一門の最期を見届けて西海に沈んだ平家の大将軍、平知盛。800年以上の時を経た今、彼の魂は、生まれ育った京都の町をめぐり、息子の知章(ともあきら)を失った一の谷の戦いの合戦跡地である須磨へ旅だちます。長い孤独と後悔に耐えてきた知盛がそこで見たものは…。

〈脚本家による解説〉
珍皇寺の 鐘に呼ばれて 東山
その男「六道の辻」に立つ。
名は、平知盛。平家一族の知将。
冥土より 今甦り
この世の 夢の底を彷徨う。
口元には 幽かな笑みを浮かべ
目は 閉じたまま
瞼の裏に 若き公達の姿を映す。
耳は しじまの中で
天の星の 動く音を感ず。
心には 染み付いて消えぬ 漆黒の──。

 平知盛と言えば。源義経と戦った「平家一の武将」で、死後も怨霊となって義経への復讐を果たさんとするイメージが強い。しかし、平家物語などの古典を読み進むと、彼は幼い頃から病がちで、三途の川を渡りそうになったことも一度や二度ではないようだ。死はいつも知盛の身近にあった。大きな傷も背負っている。だからこそ、彼は、無益な戦による無益な殺生を止めようとする。残された人の悲しみを気遣って、命を生かそうとするエピソードも多い。
 彼は、一族の中で誰よりも、自分たちの行き着く先を予感していた。
 そんな知盛と一緒に旅をしてみたい。平家が栄華を誇った六波羅から、都落ちして、西へ下っていく間に、知盛の心が体験したことを、私たちも追体験してみたい。

見上げれば、無限の冷たい虚空。
死と孤独を 友とした男。闇の中の一筋の光を 探し続けた男。
肉体が消滅したその先にある
精神の「生」を見つめようとした男。

そんな男の道行が
今、始まる。


〈脚本〉
篠折 朋(しのざき とも)
東京での教員時代(80~90年代)より、中学校演劇の活動に関わり、中学生向け脚本を作・演出で発表。2001年、劇作家協会の戯曲セミナー第1回受講生として清水邦夫氏の指導を受ける。イプセン等の演劇台本テキレジ作業&出版企画の補佐なども経験。現在はリタイアし、一人の観客の立ち位置で、古典芸能〜現代劇までひたすら劇場に通う演劇オタクとして生息中。
《主な著作本》著作名は網野朋子(or網野友子)
『風の歌がきこえる』(小峰書店「響き合うドラマ・中学校劇」演劇部巻収録)/『石長比売狂乱』(晩成書房「中学生のドラマ」②巻)/『黒衣聖母』(晩成書房「中学生のドラマ」④巻)