〈STORY〉
木曽義仲軍最強の女武者・巴御前(ともえごぜん)。粟津(あわづ)の戦いにて、「お前は女なのだから落ち延びろ」と諭され、戦場を去ります。主君と最期を共にしたかった彼女の思いはどこへ行ったのか。まだ琵琶湖のほとりでさまよっているとしたら…。広大な琵琶湖を巡りながら、巴御前の最後の戦いを見届ける物語。

〈脚本家による解説〉 
「平家物語」の中でも、中盤で彗星のごとく現れ平家を都落ちまで追い込む木曽義仲は有名です。彼の隣には巴御前という一騎当千の女武者がいて、現在でもドラマや小説で義仲の恋人として描かれます。
 しかし、彼女の実態は全くといっていいほど謎。実在の人物であるかも不明です。そもそも平家物語は、元々は琵琶法師の「弾き語り」。これが元祖という一冊の本が存在するのではなく、多くの人たちの手によって書き加えられたり、伝承が盛り込まれた、多種多様な平家物語が存在します。しかし、どの本でも、巴が登場するのはごくわずか。義仲は京都を制圧するも、わずか半年で同じ源氏の頼朝から派遣された義経たちによって攻め入られ、琵琶湖のほとりで非業の最期をとげるのですが、その「粟津の戦い」の場面にたった数行、巴は登場します。彼女の戦場での活躍と、主君・義仲との悲しい別れ。ずっと一緒に戦ってきた義仲に「お前は女なのだからここを去れ」と言われ、泣く泣く逃げのびてゆきます。巴のその後の人生は誰も知らず、彼女は無数の伝承の中で第二の人生を送ります。
 そんな巴ですが、平家物語にも、一部をのぞいて、彼女が義仲の「愛人」であったとは書かれていません。謡曲に描かれた「巴」も、あくまで「武士として主君と最期を共にできなかった」ことを嘆いています。巴が義仲の愛人というのは後世の創作なのか、やはり男女の恋愛感情があったのか、それは分かりません。しかしいずれにせよ、信じていた義仲にも、そして後世の創作者にも、「女性だから」という理由で、自分らしさや真に目指していたことを否定されてしまうのは不本意だろうと思います。たとえそれが、「巴に生きのびてほしい」という優しい希望からであったとしても…。
 彼女の悲しみは消えずとも、隣で一緒に分かち合ってくれる人がいたら。そんな思いで、今回の上演台本を制作しています。琵琶湖の広大な風景を思い描きながらお楽しみください。


〈脚本〉
英 衿子(はなぶさえりこ)
ひとり創作ユニット「ハナさくラボ」主宰。2010年頃より、演劇・コント・その他イベントの脚本・演出などを行う。《近年の活動》みっつのはなわ『ゴボーを持ちながら』(KAVCアートジャック2018参加・演劇作品)脚本・演出/朗読劇『Le Petit Prince -星の王子さま-』(2018年 心光寺 「第10回 町のお寺のコンサート」)朗読テキスト作・演出/音楽とお芝居で描く オペラ『フィガロの結婚』(2019年 兵庫県立芸術文化センター小ホール 「ブーケ・ド・ムジーク」 第2部) 脚本・演出 など。