〈STORY〉
高安山のふもと、裕福な両親の期待を一身に受けて育ったものの、視力を失い見捨てられた少年・俊徳は、四天王寺を目指して歩きはじめます。絶望にさいなまれながら“俊徳道”を歩く彼に、共鳴する人々の思いが混じり合います。そしてたどり着いた四天王寺で俊徳が出会ったのは…。対話の実践者による脚本でおくる、新しい時代の俊徳丸伝説。

〈脚本家より〉
 主人公の俊徳は伝説の少年。悲劇の少年のモチーフは、おそらく中世の語り芸能を担った人々から始まり、長きにわたり多くの芸能クリエーター達を刺激してきた。説経節、謡曲、能、歌舞伎に多彩な物語が存在する。現代においては寺山修司と岸田理生が「身毒丸」という名作を生み、繰り返し上演されている。

 演劇ラボラトリーの木ノ下歌舞伎プロジェクトの講座では、台本執筆の前に行うリサーチ法を指導していただいた。先行作品を一通り読み、資料を調べ、実際の道行を歩いてみるというプロセスに、チームでかなりの時間と労力を注ぎ込んだ。その道中を照らしてくれたのは木ノ下さんの「俊徳の声を聴くことです」「この物語に人々がどんな思いを託してきたのかを考えてください」という言葉だった。

 俊徳の物語の系譜と歴史的経緯を読み解くことに、私は夢中になって没頭した。宝探しのようにエキサイティングで、ミステリーの謎解きのようにスリリングだった。中でも説経節「しんとく丸」が好きだ。いくつもの発見があり、また原文を読みながらラストシーンには涙した。そのようなプロセスを経て、本作の主人公は説経節をベースにする事を決めた。継母の呪いによってハンセン病にかかり視力を失い捨てられたという少年だ。

 なぜ子どもを見捨てるのか。タイトルに入れた「スティグマ」とは「烙印」という意味で、特定の属性を持っている人に対してネガティブなレッテルを貼り付けることを言う。ここ数年、個人的に研究してきたトラウマやひきこもりのテーマと通じるところであり、古典を知らないオーディエンス、特に若い世代にも俊徳の物語が届く可能性を確信することができた。

 また、ハンセン病の歴史を調べ強制隔離政策について知った以上、触れないわけにはいかないと思い登場させたのだが、プロジェクトの発表公演が中止を余儀なくされ、奇しくもハンセン病に関する台詞が重みをもって聞こえる事は皮肉だった。

 冒頭とラストシーンで青年が言う、「満目青山」という重要なフレーズの元ネタは「心外無法、満目青山」。「心外無法」は、「楽しいとか苦しいといった感情やルールを作っているのはすべて自分の心」という意味だ。大事なことはちゃんと古典が言ってくれている。


〈脚本〉
ちはや
ハワイ大学留学から帰国後、日本語教室を経営。特別支援教育について独学している中で、2018年インプロと出会う。2020年より凱風館寺子屋ゼミの課外活動として演劇部を立ち上げる。また、オープンダイアローグという対話の手法をワークショップで広める活動をしており、2021年より、演劇と対話をかけ合わせたワークショップを展開中。朗読と合気道歴8年。オルタナティブ教室《声のアトリエ》主宰。